40年以上釣りを続けてきた私でも、「こんな日が本当に来るのか」と思う出来事があった。
2025年10月7日、大潮。夜には満月を迎える一日だった。
宿毛から遊漁船に乗り込み、向かった先は沖ノ島周辺。この日の狙いは芭蕉カジキではない。本命はカンパチだった。
その時の私は、いつも通りカンパチを狙う一日になると思っていた。まさか、その一投が、忘れられない1時間45分の始まりになるとは夢にも思っていなかった。
使用したタックルは、シマノ オシアジガー インフィニティ B63-4に、オシアジガー Fカスタム 2000NRHG(LDハンドル仕様)。PEライン3号、ブラックストリーム18号のリーダー、そしてシマノ ペブルスティック300g フルグローチャートバック。
いつも通りの準備を終え、スロージギングで海を探り始めた。
「重いだけ」の違和感
水深約100メートル。
ジグを操作していると、約50メートル付近でラインが止まった。
すぐにフッキングを入れると、確かに生命感はある。しかし、不思議なことにほとんど走らない。
重量感はあるのに暴れず、意外なほど素直に寄ってくる。
「意外と簡単に上がってくるな。」
そんな印象のまま、魚は残り20メートル付近まで浮いてきた。
今思えば、あの時はまだ魚自身が掛かったことに気付いていなかったのかもしれない。
海が爆発した瞬間
残り20メートルほどになった、その瞬間だった。
ドラグがジリジリと鳴り始め、ラインが一気に海面方向へ伸びていく。
そして次の瞬間、巨大な魚体が海面を突き破るようにジャンプした。
反射的に叫んでいた。
「カジキやーーー!」
その後も豪快なジャンプとテールウォークを繰り返しながら、一気に沖へ走る。
後ろからは「すげー!」という声が聞こえた。
ラインは体感で150メートルほど、もしかすると200メートル近くまで引き出されたかもしれない。
40年以上釣りをしてきた中でも、あの光景は今なお鮮明に焼き付いている。
咄嗟のドラグ調整
この時のドラグ設定は、カンパチ狙いを前提としたものだった。
ジャンプした魚体を見た瞬間、このままでは危ないと判断し、すぐにドラグを緩めた。
もし締めたままだったら、ジャンプの衝撃だけでラインブレイクしていた可能性もあったと思う。
後に船長からも「あの判断は良かった」と声を掛けてもらえた。
今振り返っても、あの一瞬の判断が、この魚との出会いにつながった大きな分岐点だったように感じている。
実は4人同時ヒットだった
ファイト後に船長から聞いて驚いた。
実は私だけではなく、船首側でも3人が同時に魚を掛けていたという。
船長は「芭蕉カジキの群れが通った」と教えてくれた。
しかし、その3人はいずれもフックアウトやラインブレイク。
最後までファイトを続け、船へ上げることができたのは私だけだった。
1時間45分、絶対に負けない
ファイトは右舷後方から始まり、途中で船首のお立ち台へ移動しながら続いた。
寄せても寄せても魚は船の下へ潜り込み、ラインが船底やプロペラに触れそうになるたびに肝を冷やす。
そのたびにリールをフリーにしてラインを送り、危険を回避した。
炎天下の中、時間が過ぎるにつれて腕には疲労が蓄積していった。
それでも頭の中にあったのは一つだけ。
「絶対負けん。」
途中、熱中症気味になった私を見た船長は、水分補給を手伝ってくれた。
あの支えがなければ、最後まで集中力を保てなかったかもしれない。
船長と仲間の温かさ
長時間ファイトしている間、他の人は思うように釣りができない。
私は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
そんな私に船長は、
「誰が掛けても同じ状況だから、そんなことは気にしなくていい。」
と声を掛けてくれた。
同船者からも「良いもん見せてもらったよ」と声を掛けてもらい、そのほかにも労いの言葉をいただいた。
激闘直後で細かなやり取りまでは覚えていないが、その温かさは今でも心に残っている。
さらに船長は、その分だけ釣行時間を延長してくれた。
魚との勝負だけでなく、人の温かさにも触れた一日だった。
「え? デカ過ぎない?」
約1時間45分のファイトを終え、ようやく魚体が船の横へ姿を現した。
その姿を見た瞬間、自然と口から出た言葉は、
「え? デカ過ぎない?」
船長がギャフを掛け、同行者が大きな網で尻尾側を支え、最後は私自身が角を持って船へ引き上げた。
その角はヤスリのようにギザギザで、握った手には傷ができ、血も滲んでいた。
それでも、その時は痛みなどまったく気にならなかった。
興奮と達成感で頭の中はいっぱいだった。
心の中では何度も叫んでいた。
「やったどぉー!」
そして、「これは一生に一度あるかないかの出来事だ」と強く感じた。
巨大魚との最後の格闘
港へ戻り、記念撮影を終えたあとも苦労は続いた。
2.8メートルの魚体は、そのままでは車に積んでいた150センチのマグロバッグにも収まらない。
そこで頭を目の上あたりで落とし、さらに胴体中央付近でも切り分けて3等分にし、ようやく収納することができた。
自宅で捌ける大きさではなかったため、仲良しの魚屋さんと一緒に解体した。
身は柵の状態まで仕上げ、あとは刺身に切るだけという形で、お世話になっている方々へおすそ分けした。
忘れられない味
自宅には一番美味しい部分を残し、刺身やソテーで味わった。
自分で釣った魚という思い入れもあるのかもしれない。
それでも、大トロ部分を口に運んだ瞬間、「マグロの大トロより美味しいかもしれない」と本気で感じた。
全身に細かなサシが入り、脂の乗りは抜群。火を通すと魚とは思えないほど肉のような食感になる。
一緒に捌いた魚屋さんもその美味しさに驚き、処分したアラを取り出して焼いて食べたほどだった。
あの日の海がくれた宝物
釣りは自然相手だ。
狙い通りにいく日もあれば、まったく予想もしなかった出会いが待っている日もある。
2025年10月7日、私はカンパチを狙って300グラムのジグを落とした。
その一投が、2.8メートル・37キロの芭蕉カジキとの忘れられない1時間45分へとつながった。
支えてくれた船長、励ましてくれた同船者、そして一緒に魚を捌いてくれた魚屋さん。
多くの人との出会いと支えがあったからこそ、この思い出はさらに特別なものになった。
今でも、あの日のジャンプ、豪快なテールウォーク、そして船と並んだ巨大な魚体の迫力を鮮明に思い出せる。
狙っていたのはカンパチだった。
しかし、高知の海が私に用意してくれていたのは、2.8メートル・37キロの芭蕉カジキとの忘れられない1時間45分だった。
この日の記憶は、きっとこれから先も色あせることはない。高知の海で過ごした、忘れられない1時間45分だった。
今後も高知の海で実際に体験した釣行記や、実際に使用しているタックル、釣りの魅力を発信していきます。ぜひまた遊びに来てください。
次はどんな魚との出会いが待っているのか――私自身も楽しみにしています。

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